祭りをはじめ、職人の仕事着や会社の祭事などでも使用される半纏·法被、これらには、「特別な日をひと味違う衣装で過ごしたい」、「プライドを持って仕事を行う正装として大切に使いたい」といった思いが詰まったものです。
ただ、どんなに素晴らしいデザインがあったとしても、製作を依頼した業者が、使用する生地、染色方法、仕立てなど細部の仕上がりまで考慮できる知識や技術がなければ、がっかりするようなものになることも。
洋服でも、デザインが同じであっても生地や仕上がりによって安っぽく見えるものもあれば高級感のあるものもあります。
それと同じで半纏·法被も、生地、染色、仕立てなど製作手法を含めてデザインを表現する必要があります。
今回は、和の雰囲気へのこだわりを形にした、兵庫県伊丹市の株式会社勝中様の法被を事例に、本物の半纏·法被について紹介させて頂きます。
1. 生地の重要性
ベースとなる生地に何を選ぶかによって、使い心地は勿論、デザイン性も変わってきます。
そのため出来上がりのイメージに合った生地の選択が必要になります。
今回は綿スラブという生地の生成り色のものを使用しています。
スラブはしっかりと擦りをかけて細くした部分、あまり擦りをかけないで太くした部分を敢えて作った糸を使用して織った生地で、見た目のビンテージ感、ナチュラルな素材感が特徴です。
糸の太さのムラによって透け感が均一ではなく表情があります。
また、快適性においてもスラブ糸のふしの特徴が所々現れ、独特の凹凸感があることで、独特の和の風合いと高級感が出るとともに、汗ばむ季節には肌にまとわりつきにくいのも特徴です。
2. 用途、生地の特性を考慮した染色
今回は職人様が仕事の際に着る法被ですので、洗濯して繰返し使用されるものです。
そのため、洗濯に強く、生地との相性もいい染料を使用。さらにスラブ生地はしわになりにくく、洗うと繊維により膨らみが出て、風合いがよくなってくる特徴があり、柔らかな肌触りで包まれる気持ちよさを体感できます。
また、生成り色の生地ですので、真っ白でないものを染めることで染め抜いた文字が生成りの色で独特の風合いがあります。ここまで考慮して生地や染色方法を選定することでひと味違う美しさが生まれてきます。
3. 敢えて背縫いを施す仕立てへのこだわり
背中の紋を貫く一本の縫い目は背縫いというものです。昔、広巾の生地が無かった時代に二枚の生地を縫い合わせて製作されていたことから来ており、魔除け厄除けの意味もあります。現代では広巾の生地が選択でき、背縫いをせずに一枚の生地で製作出来ますが、お客様のこだわりを表現し、和の雰囲気を出すために敢えて背縫いを入れています。また、背中の紋がずれないように縫い合わせるには職人の確かな技術が必要です。綺麗な紋にずれなく施された背縫いは、高い技術力の証明でもあります。
また、背中の紋の大きさは、お客様のご指定サイズに対して、当店から少し大きめのサイズにする提案をさせて頂きました。
これは、円形の紋ではないため、少し大きめにすることで法被の紋としてより映えるためです。
少しでも美しく細部にこだわることで、お客様に誇りを持って着て頂ける特別な衣装となるのです。